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フランソワ・コティが1904年にパリで始めた香水のビジネスは、一世紀経った今日世界で最も多くの香水ブランドを抱える大企業に成長した。香水製造販売では世界最大であるコティ社の香水部門総括責任者は、キャサリン・ウォルシュという小柄な銀髪の女性だ。パリとニューヨークの間をエネルギッシュに行き来するウォルシュが、果たして香水のことをよく理解しているのかどうかという点については、今までにもいろいろなところから疑問の声上がってきた。絶対に成功しないと云われていた『セレブリティー香水』というジャンルを、巨大なヒットに導いた見事な腕前は、むしろ類い稀なマーケティングの才能によるものだろう。過去にビーピーアイ資生堂で大活躍したシャンタル・ロスや、クラランスの所有するティエリー・ミュグレーの歴史的傑作「エンジェル」を生み出したヴェラ・ストゥルビなどのように、真に香水産業を理解していた偉大な香水*プロデューサー*達とこのアメリカ人女性ウォルシュを一緒にすることは、先人達への冒涜となるような事態が数日前から持ち上がっている。

この「珍事」の片棒を担いでいるのは、トレンディーなゲイの男性が大好きなウォルシュと個人的に親しい調香師フランシス・クルクジャンだ。ことの内容はというと、現在コティが所有するカルバン・クラインの香水ブランドに於いて、ブランドの設立当初から長年に渡り企画の陣頭指揮を取り、業界では最も恐れられている独立コンサルタントのアン・ゴットリーブ(ユニリーバ・ジャパンのサイト上で誤った情報を記載しているので正しておくが、アンは香りの錬金術師であったとしても、実際に香りを創ることのできる調香師ではない)がお役御免となり、調香師であるフランシス・クルクジャンが今後のカルバン・クラインの香水企画のコンサルタントとして迎え入れられたというものだ。フランシス・クルクジャンが調香師として香りを作る側になるのではなく、やかましいクライアントが「ここは、こうしろ」だの「もっと、こんな感じにしてくれ」と言って、作り手を苛つかせるような注文をジボダンやフィルメニッヒのベテランの調香師につけるという、すでに充分無駄だらけで複雑怪奇だった香水制作のプロセスを、救いようのない程とんちんかんなものにする極めてナンセンスな話だ。

大手の香料会社は、ウォルシュの馬鹿げたアイデアにうんざりだという反応を示しているが、数年間に渡りフランシス・クルクジャンと顧問契約を交わしてきた高砂香料はどういう立場にいるのだろう。もしかしたら、高砂香料がフランシス・クルクジャンとの契約を更新しないという背景があり、彼がお金のかかる自分の新事業を維持するために苦し紛れに画策した小遣い稼ぎの手段なのかもしれない。

とにもかくにも、これは、持論である『香水産業は贅肉を削ぎ落とさなければサバイブできない』ということと正反対だ。セレブリティー香水のヒットは良かったが、景気の落ち込みとともにコティも首をすげ替えるべき時期なのだろう。

(もう一言:フランシス・クルクジャンは調香師としては傑出しているが、香水産業の将来を見極める才はゼロのようだ。コンサバティブなタイプの調香師だから仕方ないのか…)

Written by:

A sculptor living in New York

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