世界レベルの調香師
最近香水関連の話を久しぶりに投稿した際、ある方から頂いたコメントの一部にこのような質問があった。
『日本にいる調香師が、世界的に知られている調香師に負けず劣らずの香水がつくれるのだろうか。』
答えは、Yes and No。一言では答えられない厄介な質問だが、私の答えとしては以下のようなことになる。
現在の香水の良し悪しの基準というのは、欧米のマーケットを中心にできあがっている。有名ブランドの香水の大半が、ニューヨークとパリにいる三大香料会社の調香師達によってつくられているという事実があるからだ。いくつもの香水ブランドを保有しているエスティローダーが、所有している或るブランドの香水をつくる場合を例にとってみると、エスティローダー社の香水開発チームは、ジボダン、フィルメニッヒ、IFF三社のいづれかに香りの依頼をする「しきたり」になっている。世界第4位のシムライズとその後に続く高砂香料にエスティローダーの香水開発プロジェクトがまわってくるという可能性は皆無に等しい。世界最大の化粧品企業のロレアルの場合は、シムライズにも新製品開発と製造の依頼をする場合があるが、他の三社に比べ有名調香師の数が少ないシムライズにお鉢がまわってくる機会は当然限られてくる。優秀な調香師達が、ジボダン、フィルメニッヒ、IFFにのみ就職を希望する背景のひとつにはこういう理由があるわけだ。非常に閉鎖的なシステムの中から有名な香水ブランドの新作が生まれてくることを理解いただけたと思う。優れた香水の基準というのはこのような状況の中で確立されているので、蚊帳の外にいるものがいくら努力しても暖簾に腕押しということになるのも当然だ。残念だが、先の質問に対しては「No」としか言いようがない…
しかし、アメリカに長く住んでいるからだろうか、逆境を想像すると “anything is possible” という気持ちが湧いてくる。日本の『xx香料』に類い稀な嗅覚力を持ち、香料に対するセンスが抜群の調香師がいたとしよう。日本にいるので仕事で香水をつくる機会は無いが、ローションからシャンプーの香りにいたるまで何でも一生懸命の仕事をこなしている。この日本にいるこの調香師が、仮に世界のトップクラスのエヴァリュエーター(エバリュエーター)と出会い、時間を掛けて(経験がないので当然そうなる)そのエヴァリュエーター(エバリュエーター)が求めている香りをつくれたとすれば、ディオールの新作の調香師に起用されるということも夢ではないかもしれない。あり得ないような仮説ではあるが、こんなことでも起きてくれないと同じ日本人としては少し寂しい。こういうようなことが起きるかもしれないという気持ちで相変わらずブログを続けているのかもしれない。
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